デレのないツンデレ(男)~「俺の死亡フラグが留まるところを知らない」を読んで、評価・感想
ー「彼女の呟きはサクラの花びらと共に風へ乗り、青い空へと溶けた」 -by 作品本文
おすすめWeb小説ランキングに力を使いすぎて燃え尽きていました。あの記事を書くのは本当にたいへんでしたので。
しかし最近やっと元気が出てきたので、久々におすすめWeb小説を紹介しましょう。
その名も、「俺の死亡フラグが留まるところを知らない」。
タイトルからはどういった小説かは全く伝わりませんが、間違いなくWeb小説の新しいジャンルを築くだろう作品です。
※ちなみに以前書いたランキング記事はこちらです。
このWeb・ネット小説がすごい!『小説を読もう』のおすすめ長編小説ランキングBEST36
あらすじ紹介、補足
その辺にいるような普通の大学生・平沢一希は気が付いたらゲームのキャラクターに憑依していた。しかもプレイヤーから『キング・オブ・クズ野郎』という称号を与えられた作中屈指の嫌われ者、ハロルド・ストークスに。そんな彼の周囲には死亡フラグと見える地雷が盛り沢山!果たして一希は山のような死亡フラグを回避して生存ルートに辿り着けるのか!?
今まで読んだことが無いタイプのWeb小説。
異世界に転移や転生するわけでもなく、ゲーム内のキャラクターとなっていた。それも作中屈指の嫌われ者。
単純に嫌われ者に憑依しただけならば、良い人として振る舞えばいいだけなのだが、この作品はそんなありきたりなものではなかった。
何と、本来のキャラクターに引っ張られて、セリフがどうしても嫌味ったらしくなるのだ。
良い人とし生きていかなくては、将来殺されてしまう。しかし、良い人として振る舞おうとしてもセリフのせいで相手に悪い印象を抱かせてしまう。
そんなハンデを背負いながらも、主人公がどうやって良い人として生きていくのか?というのが本作最大の見所だ。
死亡フラグを回避するために様々な行動を起こしていく主人公だが、物語は主人公が思いもしなかった方向へと進んでいく。
そういった良い意味での空回りも面白い。
作品の魅力、特徴
ゲーム内の悪者に憑依する作品自体は乙女向けの作品には多かったのだが、男性向けにはほとんどなかった。
読んだことがない設定、読んだことがない展開。おかげでとても新鮮な気持ちで読み進めることができる。
まず、主人公無双に焦点を当てていないというところがよい。
昨今のWeb小説は主人公が無双することばかりについて書かれている。
しかし、このWeb小説は主人公が無双するということよりも、主人公のセリフに翻弄されていることに物語のスポットライトが当てられている。
例えばこんな場面がある。
「ですから私が亡き後、どうかコレットをよろしくお願いします!あの子には罪はありません。どうか、どうかお願いします……!」
自らの命よりも我が子の将来を案じて冤罪を吹っ掛けてきたに等しい憎いはずの相手に這いつくばって頭を下げ懇願する。
これに対して主人公は「心配しなくてもいいよ」という慰めの言葉をかけようするが、本来のキャラクターに引っ張られたせいで・・・
「不様だな。その姿も、意味のない杞憂に囚われる愚かさも」
と、全く慰めているように思えない言葉になってしまう。むしろ罵っているようにしか聞こえない。
このように、主人公は考えていることとセリフが全く噛み合わないのだ。おかげでいろんな人から勘違いされてしまう。
だがそこがいい。それが面白い。主人公がどのように空回っていくのか、想像も出来ない展開にワクワクさせられる。
そして面白いのはそれだけではない。登場人物がそれに華を添える。
次の引用はある場面の主人公からヒロインとなる少女へのセリフだ。
「貴様の謝罪に価値はない。むしろあれだけ威勢よく吠えておきながらその舌の根も乾かない内に謝るなんて本物のバカなのか?大体なぁ、貴様のそういう優しさは善意からくる欺瞞だ。質が悪い上にヘドが出るようなぬるい馴れ合いに過ぎない。それで貴様が道化として踊るのは勝手だが俺の邪魔をするな。俺の視界には入ってくるな。目障りで不快極まりないんだよ」
今までの読んできた小説の中で、これほどまでヒロインに対して暴言を吐いた主人公はいなかった。
どの小説の主人公もヒロインに対しては優しくし、仲良くなろうとする。そしてすぐに主人公のことを好きになるチョロイン。
しかし、そんなお決まりなんて知ったことかと我が道をゆくのが本作だ。主人公はある目的のため、ヒロインに対してとことん冷たくする。
これだけでも今まで読んだことがないような展開でワクワクさせられるというのに、ヒロインも一癖あった。
酷いことばかりいえばヒロインに嫌われるのが普通。しかし、ここでも我道をゆくのが本作。当然、普通とは異なる。
ヒロインがその後どうなったのかが気になる人は実際に読んで確かめて欲しい。
このように、「俺の死亡フラグが留まるところを知らない」は今まで読んだことがないような展開ばかりが続く。
そしてそれを面白くさせているのが作者の文章力だ。
よくここまでの罵倒を思いつけるなと感心させるようなセリフもそうだが、小説としての基本である情景描写感情描写説明文もしっかりとしている。
間違いなく逸品もの。そしておそらくこの小説が男性向けの悪役転生をより活性化させるだろう。
まとめ
上でゴタゴタと紹介文を書いてきましたが、簡単に説明すると男版ツンデレですね。
ただ、デレが一切ないですが。そしてツンデレであるということに限りなく気が付きにくい。
最近は今までなかったようなジャンルが増えてきたので嬉しいですね。
単純な異世界転移ものには飽きてきましたので、今後も新しいタイプの小説がどんどん増えてくれることを願います。

XZ

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