この力は君のためにあるのさ。「異世界魔導古書店」を読んで、評価・感想
ー「この力(最強という設定)は君(ヒロイン)のためにあるのさ~」
「小説を読もう」の小説が多すぎてどれを読めばいいかわからないという人は多いかと思います。
まさに玉石混交で、面白いものもあればつまらないものもありますよね。
そういった方のために、僕が読んだ中でも特に面白かったものを紹介するのがこの記事です。
さて、今回特集したい小説はこれです。
「異世界魔導古書店 ~チート魔力あるけど、まったり店員することにした~」
長いタイトルですね。まあ、最近はこういったタイトルのほうが読まれやすい傾向にあるので仕方ないですが。
異世界転生最強モノというありふれたジャンルですが、様々な工夫をを加える事によって独自の仕上がりとなっています。
小説情報、あらすじの補足
突如、地球を襲った魔族と、それと戦うために生まれた異能者。
中でも最強の異能者『勇者』と呼ばれたタクトは、魔王を倒した瞬間、異世界に転生してしまう。そして魔導古書店の店員として働きながら、前世から引き継いだチートじみた力で魔導書がらみのトラブルを解決したり、ダンジョンに潜って魔導書を探したり、客とのんびり会話したり、店の裏でハーブを育てたり。
勇者と魔王の力を両方引き継ぎ、その気になれば世界をひっくり返すことすら可能なタクトのダブルチート魔力だが、そんなつもりは微塵もなく日々まったりと暮らしていく。
やがて気が付けば周りには可愛い女の子が沢山いて――。
あらすじどおり、最強主人公がまったりと異世界生活を満喫するお話。
うわ、ありきたりな設定。こういう設定の小説はつまらないものばかりだ。
と、思いの皆さん、僕がそんなありきたりな小説を紹介すると思いますか?
当然、この小説にもよくあるような小説とは異なるキラリと光る物があります。
それがどういったものかは「魅力の項目」で紹介しますので、ここではあらすじの補足をします。
といっても、あらすじがよく出来ているので補足することがほとんど無いですね。ここにも作者の文章力が現れています。
しいて言うならば、この小説は主人公が力を振りかざすお話ではありません。
むしろ、主人公が最強であるということよりも、ヒロインたちの様子にスポットライトを当てています。
どちらかというと、ラブコメに近いでしょうか。
主人公とヒロインのやり取りが何よりも面白いのです。
小説情報
文字数はおよそ27万文字。そんなに多くはないのですぐに読むことができるでしょう。
また、文章自体もスラスラと読みやすいものなので、気が付くと読み終わってます。
この小説の魅力、特徴、素晴らしさ
日頃から異世界転移最強モノに対してボロクソに言っている僕ですが、別にそういったジャンルが嫌いなわけではないのですよ。
ただ、主人公が最強だと物語の目的意識というか、方向性があやふやとなる小説が多いから嫌いなのです。
今後の展開が期待できるような話がなく、毎話でその時起こったことを淡々と書いていいるだけ。まるで日記のよう。
簡単にいえば、小説として起承転結に欠けているのでつまらないのです。
逆に言うと、そういったものをきちんと意識している小説は主人公最強モノだとしても面白い。
「異世界魔導古書店」はそういった小説です。
主人公はもうそれこそ最強すぎて次元が違うレベル。
こんな最強な主人公に物語のスポットライトを当てたところで面白い話とはなりませんよね。
そのかわり、主人公周りの登場人物たちに焦点を当て、物語に起伏をもたせています。
主人公目線から見た、ヒロインたちが四苦八苦しながら成長していく様子を楽しむことができるのです。
しかし、こういった小説は簡単に書けるものではありません。
なぜなら、ヒロインたちの魅力がそのまま小説の魅力となるからです。
ヒロインをどれだけ魅力的に描けるか、それはまさしく作者の文章力にかかっている。
それを見事に描けているからこそ、この小説をここで紹介しています。
「かわいい」。ヒロインのセリフからしぐさから動きまで、全てがそれをダイレクトに伝わってきます。
「買えない……」
セラナは潤んだ瞳でこちらを見てくる。
———————————–
「うーん……ちなみに予算は?」
タクトが尋ねると、セラナはモジモジと手を上げ、指を五本立てる。
———————————–
セラナは五千イエン紙幣をタクトに渡し、買った本を大切に抱きかかえ、手を振りながら去って行った。
上の文章は部分部分にヒロインのセリフや動作を抜粋してきたものです。
潤んだ瞳、もじもじのようなちょっとしたキーワードによって、ヒロインの性格がより出ています。
「5千円!」と言葉にせずに「指を5本立てる」。うん、いいね。
これらの文章だけでヒロインの可愛らしさが伝わってきませんか?
主人公の独り語りと、会話文だけで物語が進んでいくような小説とは読み応えが全く違います。
こちらのほうがより小説として生き生きとしています。
もう一つ大きな魅力があります。それは伏線をうまく導入している点です。
上でも述べたとおり、その話限りで出来事が完結している小説は読んでいてつまらない。
先の展開が気になるように書かれていないからです。
しかし、「異世界魔導古書店」は話のいたるところで伏線をはることによって、読者の気持ちを惹きつけています。
「もしかしてこれのせいで大変なことに…」「この先どうなるんだろう」とわくわくどきどきしながら読めるのです。
いわゆるフラグですね。フラグをポンポン立てていき、章末に回収していく。その爽快感?がたまりません。
まとめ
「異世界魔導古書店」はありきたりな設定でありながら、話をおもしろくすることで楽しめる小説となっています。
上で紹介した以外にも細かい工夫などがあり、小説としてもレベルの高い作品でしょう。
こういった小説と比べれしまうせいで、「最近読んだWeb小説」記事の評価が相対的に低くなってしまう…

XZ

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