この一杯を君に捧ぐ~「異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』」を読んで、評価・感想
ー「観客達の息を呑む音が、静かに会場に響いた気がした。」
今回は一風変わった小説をご紹介しましょう。
みなさんもそろそろ単純な異世界転移最強モノも飽きてきた頃でしょうし。
たまには息抜きに違う気色の作品を見ると新鮮でいいですよ。
今回の作品はタイトルからして今までの作品とは気色が全く異なります。
「異世界」+「バーテンダー」+「カクテル」と、全く異なる要素である「異世界」と「バーテンダー」を結びつけています。
バーテンダーなんて興味ない?という方、僕だって読み始める前はそうでした。
しかし、バーテンダーに全く興味なくても読んでいるうちに興味を持ってしまうのが本作のすごいところです。
「カクテルが猛烈に飲みたい!」と読んだ方は全員こう思うようになるはずです。
簡単な紹介
俺の名前は、夕霧総。年齢は二十三。
職業は、バーテンダーだ。
たとえここが剣と魔法、魔物と亜人種、科学と神秘が混在する異世界だとしても。
たとえ『ポーション』を混ぜ合わせて作る『カクテル』が、『ポーション』として馬鹿みたいな効果を発揮してしまうとしても。
たとえ『カクテル』を弾丸にしてぶっ放すことで、なぜか強力な『魔法』が使えてしまうとしても。
俺の職業は、あくまで『バーテンダー』なのである。
地球における「お酒」が異世界では「ポーション」だった。という、面白い設定の作品。
主人公はバーテンダー。つまりお酒に非常に詳しい。
そんな主人公が異世界へと行くわけだから、無双しないわけがない。
ただ、無双と言っても「お酒で」ですが。
いわゆる料理小説のお酒版といえます。小説を読もうで「お酒」を題材にした作品はこれが初だと思います。
「お酒に興味ないから別にいいや」と思ったそこのあなた!
実は僕もお酒に興味は全くありません。普段からお酒を飲まないので、カクテルと言われてもどういったお酒か全くわかりません。
しかし、そんな僕でも楽しめるようにこの小説は書かれています。
どうしてかって?それはのちほどの見出しで紹介します。
もう一つ、この作品の特徴としてファンタジー要素もある点です。
異世界といえば冒険!
この小説は貪欲にも冒険要素も取り入れており、様々なモンスターと戦ったりもします。
まさしく様々な楽しみ方ができる小説でもあります。
作品の特徴、魅力
カクテルに対する親近感
この小説には様々な「カクテル」が登場します。
それも単純な紹介だけではなく、その由来から作り方まで、作者のお酒に対する豊富な知識が伺えます。
例えば、カクテルの材料に「パルフェタムール」というものに対して次のように書かれていました。
パルフェタムール。
ニオイスミレという花から作られたと言われる、紫色の甘く妖艶なリキュール。
誕生当初は媚薬効果があるとまで言われ、その名前はフランス語で『完全なる愛』という意味であるらしい。
「パルフェタムール」を実際に目で見たことがなくても、この文章を読むだけで親近感を覚えてしまう。
素材に対する親近感があるおかげで、それを持って作り出される「カクテル」に対しても親近感を覚える。
1度たりとも飲んだことがないどころか、見たことさえないのに…それでも、美味しいに違いないと思わせてくれる。
非常に巧い書き方です。
巧みなリアクション描写
料理小説、料理漫画はどうして面白いのだろうか。
もちろん、料理自体が美味しそうに見えるのもありますが、一番の魅力は食べた時の「リアクション」でしょう。
リアクションがつまらない作品はつまらない。
逆にリアクションがよく出来た作品は、料理がわからなくても面白い。
「料理」が「お酒」となってもそれは変わりません。
この小説のリアクションはまさしく僕達が求めていたものと言えます。
フレンはゆっくりと、最初の一口を含んだ。
「……バカな」
瞬間、フレンの口の中を、今まで飲んだことのない爽やかな美味が踊った。
口当たりに来るのは、レモンの酸味だ。
だが単に酸っぱいだけではない。
それは言わば、猜疑に固まったフレンの舌を解きほぐす鍵だ。
本当はもっともっと長いリアクションの場面が続くのですが。一部だけ抜粋してきました。
この小説の特徴として、リアクションの場面は飲んでいる人視点となっています。
おかげでその人の驚きが、感動が、リアクションが読者にダイレクトに伝わってくるのです。
それに拍車をかけるのが作者の文章力。味に対する描写が半端じゃない。
「美味が踊る」「舌を解きほぐす」などなど、こんな表現、そこら辺の人では書くどころか思いつきもしないでしょう。
しかも、様々な場面ごとに、その場面にふさわしい表現を用いているのも素晴らしい。
同じような表現が一度足りとも使われない、毎度新鮮なリアクションを届けてくれます。
作者の語彙力の豊富さに舌を巻くばかりです。
思わず涎が垂れそうな、味の描写
今までカクテルに対する興味なんて全くありませんでした。そもそも飲んだことさえあまりありません。
しかし、この小説があまりにも美味しそうに書くものだから、読めば読むほど飲んでみたくなります。
小説内で登場した様々なカクテルたち。それらの味に対する描写が実に巧みです。
例えば作中に登場したブルームーンは次のように書かれていました。
それも喉を越えれば、静かに収まっていく。
照らす月の下で踊っていた味たちが、静かに姿を消していく。
だが、その余韻は隠し切ることができない。
強烈なスミレの風味と、それを鮮やかに切るようなレモンの刺激が、ゆったりと口の中に影を残していた。【ブルー・ムーン】という名前が示す、青白く穏やかな月を感じさせる味。
甘く、妖艶で、重い。それでいて華やかで、明るくて、ふわりと口の中を踊る味。
この文章を読めば、誰だってブルームーンを飲んでみたくなるでしょう。
甘く、妖艶で、重い。それでいて華やかで、明るくて、ふわりと口の中を踊る味。
思わず涎が垂れてきそうなほどおいしそうです。
ここまで味に対して上手な表現を用いているWeb小説は読んだことがありません。
登場人物のキャラ付け
もう一つ、紹介しておきたい魅力があります。
それは、登場人物たちのキャラ付けが素晴らしい点です。
ここまで読んできたのならばおわかりいただけたと思いますが、作者の文章力は非常に高い。
それは当然、感情描写や人物描写にも当てはまります。
つまり何が言いたいかといいますと、登場人物が全員生き生きとしているということです。
彼らの様子を「セリフ」だけではなく、巧みな文章によって「行動」も伝えてくれるので、一挙一動が脳内で再生される。
キャラが立っている。まさしくこういえます。
まとめ
カクテルのことを知らずとも、カクテルのことを好きになってしまう。これはそんな小説です。
バーテンダーがシャカシャカとふるのにも深い意味があったことを初めて知りました。
カクテルの道は思っていた以上に深い。
そういったことも学べる作品でもあります。
「異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』」 小説を読もう

XZ

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