チート転移者に対するアンチテーゼ「グラジオラスは曲がらない」を読んで~評価、感想など
2015/11/26
ー「代償なしに得られた力で正義を語るな!」
異世界召喚、転生で、主人公最強ものの小説が流行っている今、もうそういった作品を読み飽きたと思っている人は多いはず。
本日おすすめしたいWeb小説は異色の作品、「グラジオラスは曲がらない」です。
どうして転生するだけでチート能力がもらえるんだ、そんなのおかしいじゃないか!ということを切に訴えた作品でもあると思います。
そういった不条理を考えさせられるので、せめて1話目だけでも見てみることをぜひお勧めします。
この小説の作品情報
あらすじ
「ただの人が、地球から召喚されたあたしに敵うわけないのに」
その言葉を言い放ったのは剣も握ったこともないであろう少女であり、言われたのは過去の英雄に憧れ剣に生きてきた少年である。
「ざっけ……ん――な。絶、対――勝つ」
その怒りが、彼ニール・グラジオラスを突き動かす炎だ。それから二年後、街一つが地球からの転移者の集団によって制圧された時、物語は動き始める。
グラジオラスとはこの小説の主人公の名前です。物語は主人公が転生者に負けたところから始まります。
子供のころから一生懸命に努力して鍛えてきた剣にもかかわらず、今まで一度たりとも剣を握ったことがない転生者に負けてしまう。
小説家になろうでありふれた設定である、「なんの才能もなかった人が転生するだけでチート能力を手に入れる」に対するアンチテーゼでもあります。
現代に例えて言えば、毎日10時間以上勉強してやっと東大に合格した学生に対して、一切勉強していない人が運よく合格したようなもの。
そんなことがあっていいものか!
この小説の主人公は転生者でもありませんし、ましてや選ばれしものでもありません。
剣が大好きなよくいるような青年でしかありませんが、誰よりも努力ができる青年です。
そんな彼は転生者に簡単に負けてしまいますが、そこで絶望するほど弱い人間ではなかった。
それどろこか以前よりも必死に鍛錬を続け、いつの日か転生者に一泡吹かせることを望んでいる。
2年後、ついに待ち望んでいた転生者との戦いが始まります。
文字数
文字数はおよそ50万文字です。文庫本4冊ぐらいですね。
文字数以上になかなか読みごたえがある小説ですので、ちょっと本格的な小説を読みたい方にはぴったりです。
この小説の魅力
いきなりで申し訳ありませんが、この小説では転生者を次のように表現しています。
――チキュウという場所から訪れた異邦人にして、英雄であり悪魔。
技術は無く、知識もない――時々例外で凄い知識をもたらす者も居るらしいが――だというのに無双の武力を持つ絶対存在。
剣を棒きれのように扱っても現地の剣士を圧倒し、『スキル』という名の能力で武術も魔法も練達の技を扱える規格外の存在たちだ。
何の努力もしてこなかった連中が突然力を持ち、そしてその力を振りかざす。
正義のためといっては自分の思うように行動する。
最近の主人公最強転生物はそんな作品ばかりです。主人公であるグラジオラスの言葉を借りるとすれば、
ふざけた話だ、と思う。
なんの努力もしてこなかった奴が、突然才能だけを振りかざし大暴れし、自分こそ最強でありお前らは塵芥だと笑い――引っ掻き回すだけ引っ掻き回して消える。
傲慢で、無責任な連中だ。
まさしくその通りだと思います。
引用が多くて申し訳ないが、まさしく僕が日ごろから思っていたことをピンポイントで代弁してくれる文章だったので紹介せずにはいられなかった。
上に書かれたことと同じようなことを考えたことがある人ならば、間違いなく主人公に共感できるはず。
そして今までの小説と比較にならないほど感情移入してしまいます。実際僕はこれを読んで一気に主人公に対して親近感を抱きました。
さて、昨今の主人公最強ものに対するアンチテーゼはこれぐらいにして、この小説のほかの魅力も紹介していきます。
まず、上の引用した文章からもわかると思いますが、文章力がとても高いです。
人称の使い分け、感情表現、そして説明文が適度によく使われていることはもちろん、教養を感じさせる文章でもあります。
「塵芥だと笑う」や「練達の技を扱う」といった表現はそこらの人には使いこなせません。
単純に「笑う」と書かれるよりも「塵芥だと笑う」と書かれているほうが、より馬鹿にしている気になりますよね。
こういった表現が文章中で所々使われており、僕たちの想像力を刺激します。
他にも、登場人物の個性がしっかりと出ています。それは話し方といった表面的なものだけではなく、性格や行動にも表れています。
卵と聞くと居ても立っても居られなくなる主人公を、両親や魔法の先生を友達だと勘違いしている友人。どのキャラクターも魅力的です。
ライト過ぎるWeb小説に飽き飽きしてきた方にはぜひともお勧めしたい小説です。
まとめ
今回のレビューはちょっと私見的すぎたかもしれません。
人によってはご都合主義な主人公最強ものが好きな人もいるでしょう。
別に僕はご都合主義を否定しているわけではありません。むしろ深いことを考えずに読めるという点では悪くないと思っています。
ただ、ご都合主義は見方を変えればこの小説のように見られるということも言いたいのです。

XZ

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