鈍感卑屈系主人公~「クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル」を読んで、評価・感想
ー「いつもキョドってオロオロしてばかりのアイツは、ウチが話しかけたらどんな顔をするだろう。」
「これはやばい・・・」
冒頭の数行を読んだだけで、久々の大作の予感に打ち震えた。
読み進めるにつれ期待はMAXとなり、その日の徹夜が決まった。
作品の名前は、「クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル」。
軽そうなタイトルに反して、中身は非常に濃いです。何種類もの楽しみ方ができる小説です。
作品概要、紹介
間久辺比佐志(まくべひさし)。自他共に認めるオタク。三次元における恋人いない歴はイコール年齢を毎年順調に更新中の高校二年生。ひょんなことから不良たちに目をつけられた主人公は、オタクが高じて身に付いた絵のスキルを用いて、スプレーアート・グラフィティライターとして不良界に関わりを持ち、やがて夜の街の代名詞とまで言われる存在になっていく。本来ならば不良と決して関わりを持たない主人公の身に、果たしてこの先なにが待ち構えているのだろうか。不安で夜も眠れず、深夜アニメを見る日々が続く!
「小説を読もう」では非常に珍しい、異世界モノではない作品。それ以上に珍しいのは、スプレーアートをテーマとしている点。
スプレーアートとは、駅前の壁などによく描かれているスプレーによる落書きーといえば、この作品を読んだ人に怒られるかもしれせんね。
この作品を読むまではスプレーアートが何たるかもよく知らず、不良のいたずら程度に思っていました。
しかし、そんな思い込みは、頭をバッドでガツンッと殴られたかのように、いい意味で思いっきりぶち壊してくれました。
一見何のとりえもなさそうな、クラスのヒエラルキー最下層の少年が主人公。
そんな主人公があるきっかけに、誰もが知る超有名なグラフィティライターとなってしまう。
目立ちたくない一方で、スプレーアートを描く高揚感が忘れられずに葛藤する主人公ですが、彼には一つだけ譲れないものがって…
そして、そんな主人公とクラスメイトの恋愛事情も物語を盛り上げてくれます。
グラフィティライター×ラブコメという、難しいテーマでありながら、それを見事に表現した作者には脱帽です。
本作の特徴
本作はスプレーアートをテーマとしていますが、難しいテーマを扱っているだけあって、描写がとても丁寧です。
スプレーアートをあまり知らないような人たちでもわかるように、難しい言葉をあまり使わずに、専門用語もわかりやすく説明してくれます。
そして、そのわかりやすい描写のおかげで、まるで自分が物語の中に入り込んで実際にスプレーアートを見ているかのように、その様子が頭で再現されます。
僕のような素人でも、そのスプレーアートがどのようなもので、どんな難しさがあって、どれだけすごいものなのか、わかってしまう。
どれほどすごいものでも知らなければ感動も何もありませんが、知っているものだと受ける印象、感動もガラッと変わります。
それを作者はよくわかっていて、とても丁寧で、読み辛くない文章でそれらを伝えてくれる。
そこに作者の文章力のすごさが表れています。例えば、次の文章がその一例です。
「ふざけてなんていないよ。だってこの絵、普通に上手じゃない? ベニヤ板はかなり表面が荒れてて、ペンが入りずらいのよ。これはコンクリート製の外壁も条件は一緒。しかも、自分に対して平面の壁になにかを描くという行為は、思っている以上に難しいものなのよ。ほら、学校なんかで黒板に文字を書こうとすると、上手く書けなかったりするじゃない。それと一緒。そういう条件の中でこれだけの絵が描けるなら立派よ」
ネタバレをしないためにも、あえてインパクトが大きくないものを選びましたが、それでもなんだか凄そうだという雰囲気が伝わったと思います。
メインのスプレーアートはこんなものの比ではなく、強烈なインパクトを与えてくれます。それは実際に読んで、自身の目で確認してくださいね。
もうひとつこの作品の特徴として、恋愛描写がよくできている点です。
すでに何度も説明している通り、恋愛描写というのは書くのがとても難しい。
それぞれの登場人物の感情描写がしっかりできなければ読者が感情移入できない上、読者が納得し、さらに感動させるような物語を生み出すのはそうそう簡単ではありません。
本作が恋愛小説として面白いのも、登場人物らの心理描写が事細かに行われており、僕たち読者を驚かせるようなストーリー展開が何度もあるからです。
特に、ヒロインの心理描写は読んでいてニヤニヤしてしまう一方、どこかで悶々させられる。
それに対して、主人公の心理描写はどこまでも青臭く、それ故に青春っぽさを感じてしまう。
彼、彼女らのすれ違いがこれまたもどかしい。例のごとく、一文を引用しましょう。
背中にかかる重みによろめきながら、無言で道を歩く。
聞こえてくるのは、ぼくの荒い息づかいと、石神さんのすすり泣く声だけ。やがて落ち着きを取り戻したのか、石神さんは鼻声で言った。
「どうして………助けに来たの?」
「質問の意味がわからないよ。助けられたくなかったの?」
「そんなわけないじゃない!」
「じゃあなに? ああ、そうか。どうせならぼくみたいなキモオタなんかじゃなくて、白馬に乗った王子様に助けられたかったってこと? 石神さんも女の子なんだね」
この主人公の卑屈さ、どこまでも自分に自信のないセリフ。思わず笑ってしまいました。
でも、そんなものも主人公のかっこいい行動を見せつけられた後だと微笑ましく見えてしまうし、これも主人公の魅力なんだろうなって、思わせてくれる。
それもこれも、作者の文章力の高さによる心理描写とストーリー展開によるものでしょう。
ラブコメとしても一級品、主人公成長ものとしても一級品。グラフィティライターを知る作品としても一級品。
楽しみ方が何通りもあって、そのどれもが高クオリティ。まさにマスターピース。
グラフィティライターに興味がなくても、楽しめること間違いなし。ぜひ、ご一読を。
まとめ
いやあ、次期ネット小説ランキングの上位陣はほんとに争いが激しい。
1位にしたい作品が多すぎて、どれにしようか悩んでしまう。
そして今回、その1位争いに新たに参加する作品が登場してしまった。
これだからWeb小説はやめられない。
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XZ

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