平凡で非凡な主人公「BMP187」を読んで、評価・感想
2016/02/10
ー「……強さじゃどうにもできない強さもある。どれだけ確率と理論を積み重ねても、届かないものもある」(文中抜粋)
最近はWeb小説ばかり読んでいるため、紹介記事ばかりとなっています。
まあ、実際このブログの人気コンテンツも小説紹介ですので、まあいいかなと。
さて、本日の小説を紹介しましょう。
気が付けば朝の5時過ぎになっていた、恐るべき小説。
Web小説でこんなに笑わったのはいつ以来でしょうか。
「小説を読もう」でも数少ない、本当に笑わせてくれるWeb小説、「BMP187」をご紹介しましょう。
小説情報、あらまし
「幻影獣」と言われる怪物に蹂躙される世界。平凡な少年・澄空悠斗は、ある日突然「世界最高のBMP能力者」と断定され、ソードウエポンの称号を持つ少女と共に、幻影獣との戦いに身を投じていく。
多くの作品と違ってあらすじが短いですね。
BMPがなんだかよくわからないけど、とりあえずその値が世界最高峰の少年が主人公の物語とわかります。
なんとなく、「なんだ、よくある主人公最強モノか」と思われた皆さん。ちょっと待ってください!
僕がそんなありきたりな作品をわざわざ特集記事にするはずがありません。
確かに主人公は最強かもしれません。しかし、それは部分的に限った話であって、常日頃はむしろ弱い。
そして面白いことに主人公には自身が強いという自覚が全く無い。
どこまでも平凡な少年が、非凡な力を秘めている。
そのギャップを巧みな心理描写で面白おかしく描いているのがこの小説なのです。
確かにジャンルで言えば主人公最強モノと言えるかもしれませんが、この小説の主体は全く別のところにあるわけです。
本作の魅力、ならではの特徴
まだ、諦める時じゃない
困難に陥った主人公が、意志の力でもって逆境に立ち向かう。
どれほど絶望的な状況でも主人公の諦めない。
小説に限らず、物語でよくあるような展開ですよね。王道と言ってもいいでしょう。
同じような展開を何度も目にしているはずなのに、それでもそういった物語は人気が高い。
それはやはり、王道であるだけの面白さがあるからにほかなりません。
逆境に負けない主人公はかっこいい。どこまでも諦めない主人公は胸を打つ。
ただし、王道にさえすれば面白い小説となるわけではないように、単なる王道ではそこまで胸に響きません。
主人公に感情移入させ、伏線をきちんと張り、きたるときにそれらを一気に解き放つ。
そういった構成力の旨さによって王道の面白さは最大限に引き立てられるのです。
この小説はそれらを忠実に実現している。だからこそ、燃えるような展開が楽しめるのです。
さっさと敵を倒してくれ!
この小説の展開が燃えるように面白いと話したばかりであれですが、それでも戦闘描写は早く終わって欲しいと思ってしまう。
どうしてか?戦闘描写以上に日常的な場面のほうがもっともっと面白いから。
誤解を招かないように言っておきますが、戦闘描写も十分に面白いのです。
しかし、日常的な場面が面白すぎて戦闘描写以上にそっちを楽しみにしてしまう。
比喩でも例えでも大げさでもなく、日常パートでは毎話のようにおもわず笑ってしまう。にやりとさせられる。
まず、地の文が面白い。
主人公の一人称で地の文は書かれているのですが、独特な言い回しや考え方で笑ってしまう。
例えば、次の場面
翌日。
昨日の激闘(麗華さんしか闘ってないけど)が嘘のように、平和な教室。
その静寂を破る乱入者が現れた!「澄空!」
このクラスのもう一人のBMPハンター、三村宗一だ。
「聞いたか! 澄空!」
「もちろんだ。新月学園の学食が、ささみチーズフライの販売を一時停止するという話だろう?」
悲しむべきことだ。
「誰が、ささみチーズフライの話をしてるんだよ! 他にも、うまいモンはあるだろうが!」
何を言っているんだ、こいつは?
「いくら、おいしい料理を並べていても、『ホーム』となる料理は必要だ。ささみチーズフライ、ささみチーズフライ、ラーメン、ささみチーズフライ、ささみチーズフライ、トンカツ……といった具合に」
「だったら、『ホーム』を変えろよ! 牛丼、牛丼、カツ丼、牛丼、牛丼、鳥の唐揚げ……といった具合に!」
「む」
なるほど、一理ある。
だが、しかし。
「それは、ささみチーズフライに対する裏切りにはならないだろうか?」
前日に激闘があり、明らかに大事な話をしに来たであろうクラスメイトに対し、この切り返し。
これだけに限らず、こういった日常パートで様々なコントのようなやり取りがあるのです。
読みやすくテンポも良い、所々でクスリとさせられてしまう。
シリアスパートでも遠慮無く笑わせてくるのだから作者もたちが悪い。
しんみりとした雰囲気も一気に吹き飛んでしまう。
しかし、それのおかげで重たい雰囲気を感じずに済む上に、軽い気持ちで読み進められる。
そんなことができるのも、間違いなく作者の文章力がずば抜けているからにほかなりません。
なんと!つまりそういうことか!
物語性とは何か。
それは、物語全体の軸となる芯がしっかりと見えていること。
例えば、魔王に滅ぼされそうな世界では魔王討伐が軸となるし、恋愛小説では好きな人と恋人になることが軸となります。
これがあると目的意識を持って読み進められるので、先の展開が気になるといったように物語にのめり込みやすい。
逆に、特に目的もなく異世界をブラブラとするような小説は物語性がなく、読み続けられるだけのモチベーションを保ちにくい。
この小説は物語性が非常に高く、さらに多段構造となっています。
物語全体に軸があり、さらに各章ごとにも軸がある。そして各章の軸が収束することで物語全体の軸に近づいていく。
つまり簡単にいうと、先が気になって気になって、物語に引きこまれてしまうというわけです。
物語全体に謎があり、各章でその謎に少しづつ迫っていく。
読み進めるごとに、謎が少しづつ明らかになっていく快感。それと同時に更に続きが気になってしまう。
まあ、そんなことよりも日常パートのほうが気になるんですけどね。
まとめ
小説を読もうのランキングシステムに異を唱えたい!
どうしてこんなに面白い小説がランクインされないのだろうか。
この小説にかぎらず、多くの小説が埋もれてしまっている。
それにもかかわらず、文章力もないつまらない小説がランクインされていることもしばしば。
まあ、面白いかどうかは個人の主観によるところが大きいので仕方ないのかもしれませんが。

XZ

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